「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズで話題になった三上延の新作で、昭和初頭のお話です。
第一話:背広
市ヶ谷にある私立大学に通っている甘木は自分が極端に印象の薄いことに悩んでいた。
今日も先週行ったばかりの神楽坂の「●喫茶 千鳥」に行くが、女給の宮子は彼が先週も来ていたことも彼の名前も忘れている。
ビールとカレーライスを頼み、先に来たビールを飲んでいると、隣のテーブルの壁に自分のものと同じ灰色の格子柄の背広がかかっているのに気づく。
そこに座っていたのが、私立大学のドイツ語部教授、内田榮造だ。
カレーを食べようとしたところ、内田に名前を呼ばれ、彼のテーブルで一緒に食べることになる。
内田と別れ、しばらくしてから背広が自分の持っていたものと違うことに気づく。
間違えて内田の背広を持って来てしまったのだ。
甘木の背広は同郷の友人、青池から借りたもので、内田のは形見分けだと言っていた。
その夜、甘木は不思議な夢を見た。
目覚めると高熱を出していた。
お見舞いに来た青池は背広のことを聞いた後、内田の背広を持っていってしまう。
翌日、内田が背広を取り戻しに来たので、一緒に青池のアパートに行くと…。
第二話:猫
甘木の行きつけのカフェ「千鳥」で女学校を卒業したての春代という女給が働き始めた。
ある日、甘木が「千鳥」に行くと、春代は休んでいるという。宮子は翌日お見舞いに行くというので、甘木も一緒に行くことにする。
春代は白山神社の二階家に一人で住んでいる。たまたま来ていた叔母にことわり、二階の春代の部屋に行くと、春代の様子がどうもおかしい。
まるで猫なのだ。
甘木は一目散に春代の家を飛び出す。
第三話:竹杖
甘木が神楽坂のカフェ「千鳥」に行くと、女給の宮子に内田榮造先生が山高帽子の入ったボール箱を忘れていったので、先生に届けて欲しいと頼まれる。
早速内田の家に届けに行くと、そこにかつて甘木と同じ学科で学んでいたという笹目という男がいた。
笹目が蓄音機にどのレコードをかけようか吟味している時に、甘木は不気味な絵が描かれた紙を見つける。
笹目によるとその絵は芥川龍之介が描いたドッペルゲンガーの絵だという。
その夜、内田の家からの帰り道に、笹目と甘木はステッキを持った和服の男、芥川龍之介に出会う。
二日後、甘木がカフェ「千鳥」で青池にドッペルゲンガーについて話していると、笹目が現れる。
そしてそこに…。
第四話:春の日
昨年の九月から甘木は内田に関係を断たれている。
宮子から花見に誘われ、甘木は武蔵小金井まで行く。
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