三上延 『百鬼園事件帖』
2023-11-18


待ち合わせ場所の橋で、甘木は内田の山高帽子のようなものを灰色の狐がくわえて「いなり屋」という料理屋に入って行くのを見る。
怪異になるべく近付かないようにしているが、内田に関わることではないかと思うとほってはおけず、甘木は狐に着いて行ってしまう。
「いなり屋」から出られなくなった甘木はいつしか古い二階家に辿り着き、そこで内田と三人の学生たちが写っている写真を見つける。
学生のうちの二人は笹目と多田、そしてもう一人は?
内田から部屋の主に送られた葉書に書いてあった宛名は「伊成一雄」。
そこにやってきた女将らしき女に写真と狐のことを訊くと…。

大学生の甘木君は内田榮造先生と出会ったときから怪異現象に悩まされるようになり、内田先生は甘木に影響がいかないように頑張るが…というお話。
内田先生のツンデレっぽいところが好きです。

気づいた方がいるとは思いますが、内田榮造とは夏目漱石の門下生の一人、内田百閧ナす。漱石つながりで芥川龍之介と親しくなり、芥川は百閧フ良き理解者だったようです。
「存在の不安感を夢や幻想に託した小品、短編を執筆」(「世界大百科事典 第二版」)し、「小説家としては大成しなかったが、一種の精神的美食家として知られ、ユーモアと俳味に富む唯美主義的な随筆に独特の味わいを発揮した(「ブリタニカ国際大百科事典 小項目辞典」)そうです。
性格は頑固一徹で、玄関には「面会謝絶」の張り紙をしていたなんて、そうとうの偏屈者ですね。借金名人で酒好きの大食漢、徳川夢声と奇人対決をしていたり、漱石を愛するがあまり、漱石の鼻毛をひそかに収集していたそうです(キモ)。
他には琴を演奏し、無類の乗物好き、小鳥や猫好き、意外にも教え子に慕われていたようです。(黒澤明監督「まあだだよ」は百閧ニ法政大学の教え子との交流を描いています)
どうやら人間的魅力に富んだ人だったようですねwww。

三上さんは続きを書きたいそうです。(「芥川においてけぼりにされた百閧ヘ何を思うのか 『百鬼園事件帖』」参照)
影の薄い甘木君は実際にはいない人物という感じですが、本の中で再登場しそうですね。
私はもう一度芥川龍之介が出てくるのを期待しますわ。


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