西加奈子 『くもをさがす』
2023-05-27



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2021年、コロナ禍の中、カナダのバンクーバーで暮らしていた西さんは、足に大量の赤い斑点ができ、クリニックに電話をします。
写真を送ると帯状疱疹ではないかと言われ、対面の診察では蜘蛛か何かに噛まれたのではないかと言われます。
実はこの頃、西さんは胸のしこりが気になっていました。
思い切って医師にそのことを告げると、その場で三週間後の超音波検査とマンモグラフィ、そしてその一ヶ月半後の針生検を予約できました。
結果は浸潤性乳管がんでした。

たいていの人は言葉やシステムがわからない外国で治療を受けるよりも日本でと思うでしょうが、コロナ禍では戻るに戻れません。
西さんはカナダで治療を受けることになりますが、治療が軌道に乗るまで、様々な困難に遭遇します。
例えば、がんセンターから電話がかかってくると言われたのに、かかってこない。
吐き気止めの薬をいつ飲んだらいいのかわからない。
薬が薬局に届いていない。
白血球を増やす注射を自宅で自分で打たなければならない。
両方の乳房を切除したというのに、手術は日帰り。
しかし幸運なことに西さんには頼りになる知人と友人たちがいました。
看護婦たちは皆優しく、驚くほどのケアをしてくれました。

カナダでは看護師と患者は対等な関係です。

「カナコ。がん患者やからって、喜びを奪われるべきやない」
「あなたの体のボスは、あなたやねんから」

彼女たちはそう言って必要な時には手を差し伸べてくれます。

西さんも書いていますが、「日本では家族のことは家族だけでなんとかしないといけない、という考えが、私たちの心身にしみついている」ため、人に頼ることをよしとしません。
もし私ががんになったら、たぶん人には頼らずに、家族だけで頑張るでしょう。
家族には仕事があるからと、一人で病院まで行って検査や治療に耐えるでしょう。
ご飯のことなんかできそうもないから、コンビニ弁当にでもなるのだろうなぁ…etc.。
でも西さんの場合は違いました。
電話で埒が明かない時は知人が代わりに電話をしてくれました。
Meal Trainというものがあり、西さんのがんがわかってから手術を終えた後まで、半年も友人たちが毎日順番にご飯を届けてくれました。
病院に行くときには、付き添ってくれる人がいました。
カナダで皆西さんのようなサポートが得られるわけではないでしょうね。
「私は人に頼るのが得意な方だ」といえる彼女のような人だからこそ医師や看護師などと温かい交流ができ、友人たちからのサポートが得られたんじゃないかしら。
人に頼れない私じゃダメだわねぇ…。

この本は闘病記ではありますが、日本とカナダの文化論でもあります。

「日本人には情があり、カナダ人には愛がある」


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