中野京子 『怖い絵』
2009-10-13


禺画像]
題名の『怖い絵』から、幽霊などの絵のことを書いた本だと思うかもしれませんが、実は絵の背景にある物語が怖いのです。
例えば、ドガの『エトワール、または舞台の踊り子』。
ドガの一連の有名なバレリーナの絵の中の一枚としてしか知りませんでした。
しかし、ドガの時代には「オペラ座は上流階級の男のための娼館」だったとか。ということは、バレリーナは娼婦と同じ意味合いを持っていたのですね。
そういえば、中野さんが書くように、ドガの描くバレリーナには個性がありません。どの人も同じように描かれています。
ドガはバレリーナに人間としての興味なんかはまったくなかったのでしょうね。
こういう背景を知ってからドガの絵を見ると、怖いかも。

紹介されている絵の中ではクノップフの『見捨てられた街』なんかが好きです。
本当のブリュージュはこの絵とは全然違いますが、絵に描かれた人のまったくいない無機質な都市としてのブリュージュはとても幻想的です。

人間的に興味を持ったのはルドンです。
本では『キュクロプス』が紹介されています。(写真)
ルドンは母に捨てられた子供でした。
兄を偏愛していた彼の母親は、生後二日になるルドンを「荒れ果てた未開の地」ペイルルバードへと里子に出します。
彼は幼少期をそこで独りぼっちで過ごしたのです。
里子期間が終わった後も年老いた伯父のもとにあずけられ、11歳まで親にかえりみられずに育ちます。
こんな彼の生い立ちが後の彼の絵の作風に影響を与えたのだろうと言われています。
モネやロダンと同じ1840年に生まれたのにもかかわらず、光と色彩の印象主義全盛の時代を、彼は木炭画ばかり描く孤高の画家として生きたのです。
彼が黒の時代から脱却するのは、50歳間近になってからです。
彼の傷ついた心を癒すにはそれだけの時間が必要だったのですね。
だからこそ、彼の色には人を引きつける特別な何かがあるのでしょうね。
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